2020年03月04日

translation

マーセル・セロー著『極北』を読了しました。

翻訳の村上春樹さんが書いているように“近未来小説”ともいうべき物語だった。

近い将来に来るべき地球のお話しか・・・

戦争なのか気候変動なのか放射能なのかウィルスのせいなのか、あるいはそのすべてか小説のなかでは詳しくは描かれないが、人類はほとんど死に絶えている。

極北に生き残った人間は廃墟の中で原始時代さながらの狩猟生活をしながら人に怯え人を怖れ、ひっそりと隠れながら生きている。生き延びるために武器は手放せない。

襲撃者が殺人、略奪をおこなうからだ。捕まれば奴隷にされる。

平和な時のような優しさや思いやりは人間には残っていない、どこまでも冷たく乾いて不安に満ちた世界で主人公はタフにサバイバルを続ける。

小説の内容は何度も「えっ」と驚かせられる意外性に富んでいて、一気に読み進んでしまいました。ラストにはわずかな希望が残される。

小説の内容もさることながら、翻訳された文章が上等なのでしょう。翻訳しているのがノーベル文学賞の候補になるような超一級の小説家だものな。

海外の文学は翻訳された文章がへんてこなことが多い。なかなか読み進むことができなくて、途中で断念するのはその問題が大きいと思います。

文才というのは天性のもの。訳は合っているのだろうけれど、文章に魅力がなかったりするのです。

そんな中でいまでも覚えている面白かった名訳の小説は、やはり翻訳しているかたが上手だったのだろう。

若い頃に読んで衝撃を受けたスティーブ・エリクソンの『ルビコンビーチ』は島田雅彦さんの翻訳だった。

“ふたつの太陽”の制作のために読んだ『ヒロシマを壊滅させた男 オッペンハイマー』の翻訳は、池澤夏樹さんで資料として読んだけれどノンフィクション小説として単純に面白かった。

雑誌“Coyote”で読んだジャック・ロンドンの『野生の呼び声』は柴田元幸さんの翻訳だったけれどかっこ良かったなあ。

アウシュビッツ絶滅収容所に収容されていた心理学者、ヴィクトール・E・フランクルが書いた名著『夜と霧』は霜山徳爾さんと池田香代子さんの二人の翻訳版が出ている。

それぞれ興味深い違いがあると新聞で読みました。

名著とかいいながら恥ずかしながらまだ読んでいないので、池田さんの新訳をみすず書房に早速注文。

井上陽水さんの名曲『傘がない』をロバート・キャンベルさんが翻訳した。

タイトルを当初は “I've got no umbrella” としていたけれど、陽水さんに見せたらダメがでた。

「傘というのは、生きているうちにある色んなことから自分たちを守ってくれるものだから、誰かのものであってはならないんです。」by Yohsui Inoue

結局、陽水さんのいう通りに “No Umbrella” になったが、キャンベルさんは納得がいっていないようです。

翻訳か・・・

原文で読めれば良いのだけれどなあ。

farnorth.jpg
“FAR NORTH” 高山裕子さんのカバー絵を模写。徹頭徹尾、かっこいい小説だった。
posted by Mukai Kumotaro & Duex Shrine at 08:02| ブログ?