シンイチは真っ暗な通路にいる。
通路には明かりも何もないがだんだんと目が慣れてきた。
前からは相変わらず大声と悲鳴が聞こえてくる。それをかき消すように重低音で、ものすごい音楽も聞こえてくる。
じりじりとすすんでいると、うしろのおとこが話しかけてきた。肌が真っ黒な、その背の高いおとこは『ホフムラ』と名乗った。どうもどうも、はじめてですか。じっと前を見つめながらにこやかにホフムラは喋った。
はじめて?ホフムラさんはなんども来とるんですか。まあね、オニとあきないをしとるもんで。
オニ?聞いたことのないことばにシンイチは、内心戸惑いながら曖昧にうなずく。あの銃をもって入り口にいた、肌が白くて真っ赤な顔をした鼻の高い男たちのことか。
よく見えなかったが、シンイチにはわからないことばでなにかを話し合っていた。だって悔しいじゃないですか。あいつらのためにわしらこんなふうになったのに、まだいじわるしよるねん。
ホフムラは心底うんざりした顔でそういうと、ため息をついた。彼らのためにこうなった?どういうことだろうか。考えながら歩いていると前が明るくなってきた。
暗闇から突然に明るいところに出たので一瞬目が見えなくなる。相変わらず凄まじい大音量に混じって悲鳴が聞こえている。
まだ状況はよくわからない。
舞台のようなところに老婆と老爺がいて、1人づつそこへとあがり何かをしている。それをオニたちがとり囲んでワイワイと騒いでいる。
ネクスト!
ばばあがそう叫ぶとシンイチの前の男がおそるおそる舞台にあがった。明かりが男に当たる。からだが浮き上がるほど、音楽が大きく鳴り響いている。地面が揺れるぐらいの大きさだ。老婆が包丁をまな板に突き刺して、怖しい形相で男をにらんだ。
オニが何か叫んでいるがよく聞こえない。男は首を振りつづけるが、観念したように包丁を持つと自分の股間に包丁をあてる。
ぎゃー!舞台上には男の凄まじい叫び声が鳴り響き、オニたちは爆笑する。男は股間から血を流しながら、切りとった自分のイチモツをじじいに渡す。じじいはそれを目の前にある天秤にヨロヨロとのせる。
あれで罪の重さをはかってんねんや。うしろからホフムラが笑いながら耳元にささやいた。
カタンといって天秤はイチモツのほうへと傾いた。
男は老婆からチケットのようなものをもらうと、先の黒いカーテンのなかへ泣きながら消えた。
『無題 2020.1.7』