2021年01月29日

それからどうした

シンイチがとうぜんとした気持ちでいると男たちが騒ぎはじめた。

どうやらなにかがはじまるようだ。

じゃあ、みんな裸になるか。責任者らしき比較的に肌の色が白い、いるかのような顔をした男がまっさきに全裸になってニホン語で言った。

シンイチはすでにほとんど裸なのでそのままでいる。じゃあ、横になろう。つづいて男が指示した。

横になろうとするとひじの皮がずるりとむけた。うごくたびに全身のやけどがひどく痛む。仰向けになると刺さっている無数のガラスの破片が背中に喰い込んでシンイチはうめき声をあげた。

あちこちでうめき声があがるので、みんなおなじようにガラスの破片がからだに刺さっているようだった。上のほうで、痛いのーくそーとホフムラが大声で怒鳴っていた。

痛みをこらえてしばらく息をとめていた。けれどもいままで緊張していたのだろう、横になれてこころの底からリラックスした気分にもなれた。おおきく息を吐くとゆっくりおおきく吸った。

そしてまたおおきく息を吐く。どんどんこころのなかが、からっぽになっていくのがわかった。

からだの痛みもやわらいでいく。

ふっとロウソクが消された。

からだのなかをからっぽにしよう。そうしてあたまのなかもからっぽにしよう。なにもかんがえない。どうしてもなにかをかんがえてしまうやつは、その思考を追わない。

窓から空の雲をながめているように、ただその考えをながめるだけ。

となりの男はいびきをかきはじめた。シンイチもだんだんと眠たくなってきてしきりにあくびが出た。

こころを静かにするといままで気にならなかった、からだを這ううじ虫のうごきを感じた。かゆいような痛いような感じだ。それにあわせてからだをもぞもぞとうごかす。じぶんじしんがうじ虫になったような不思議な感覚だった。

そのままうじ虫にうごかされよう。じぶんでうごくのではない、うごかされるのだ。生きているのではない、生かされているのだ。

シンイチは一匹のうじ虫になっていた。そろりそろりと、すこしずつ進んでいく。

ここはいったいどこだろう。真っ暗なふかい土のなかのようだ。

なぜこんなに苦しまなくてはならないのか。息が苦しい、呼吸ができない喉が渇いて仕方がないつばがまったくでない。それでも手探りですこしづつ進んでいく、まるでうじ虫のように進んでいく。

小さな光のようなものが見えてきた。

その光がだんだん大きくなってくる。近づけば近づくほどに明るくなってきてそして・・・

ぱん、と男が手を叩いたのでシンイチはわれにかえった。

ロウソクがふたたび灯された。

なんだか生まれ変わったように身もこころもリフレッシュしていた。

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『いるかのような顔をした男』
posted by Mukai Kumotaro & Duex Shrine at 06:22| 小説のようなもの