2019年04月19日

無面目

中国に、天地開闢の頃から山の頂上で冥想をしている目も耳も口もない“混沌”という神さまがいました。

「見ない 聞かない 喋らない」という日光の三猿みたいに、思索を続けていた。

宇宙の秘密や天地の仕組みについて、知らないことはないという噂。

仙人の一人が混沌と話しがしたくて、戯れに目鼻口を顔に描いた。天地のはじまりやこの宇宙の成り立ちについて質問して、さて顔を消そうとしたら消えなくなっていた。

これをきっかけに外界のことに興味をもってしまい、神は山を降りていく。

「たいへんだ天地開闢以来、うごいたことのなかった混沌がどこかへといってしまうぞ。」驚いた仙人は心配してあとをつけていく。

しかし、神しか通れない道を通って混沌は消えてしまう。

混沌は、山を下りる途中に人間にもらってまずはものを口に入れる。「なんなんだこのからだに感じる刺激は。」そして死体をみて魂魄が飛び散った状態をはじめて知る。

彼は疲れというものを知らなかった。休息や食事や眠りも知らずにただ思索を続けながら歩き続けた。そして長安の都へと至る。

「なんなんだこの場所は?どれもこれも不純でちっぽけな魂と気がメチャメチャに入り混じって蠢いている。」

そしてはじめての腹をしめつけるような感覚に襲われる。空腹である。立ち寄った店で飯を食う。酒も飲んで。

「不思議な感覚だ。わたしの思索がかき乱されてしまう。」お金を持っていないので袋叩きにされる。けれど痛みを感じない。なんせ神なので。

捕まって牢屋に入れられて、そこから波乱万丈の人としての人生がはじまる。仙人が描いた顔のモデルが将軍の顔だったのだ。

将軍と入れ替わった混沌は、そこからどんどんと政治的に利用されたりしながら出世していく。

まわりの人々にだんだんと影響されて卑俗になっていく神。暴力を覚えてその虜になったり。

「他人は平気で殺すのに、自分はその死を恐れおののく。人間というのはなんと矛盾しているのだ。」そうして愛を知り欲にまみれていく。

だんだんと自分が誰だったのか忘れてしまい完全に自分を見失い、怯えを知り酒に溺れ人を殺して不老不死であるはずの神が最後は、死んでしまう。

by 諸星大二郎著『無面目』

さて大都会、東京へ戻っています。

ほんとうにもう神さまでさえも、新宿歌舞伎町なんていった日には人間に堕してしまいそう。

その魅力は暴力的で一瞬で巻き込まれて、渾沌としてまさに自分を見失いそうです。

立ち止まってうしろを振り返る暇もありませんから。

どんどんどんどん流されていき、巻き込まれていく自分。

怖いでえ。

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copyright Daijiro Moroboshi.
posted by Mukai Kumotaro & Duex Shrine at 05:21| ブログ?