2019年08月06日

ふたつの太陽_2019

1945年8月6日 8時15分

広島の青空に、摂氏12000度の“ふたつの太陽”があらわれた。

太陽の表面温度が6000度。太陽、ふたつ分の狂気が人類の手によって解き放たれた。

そこにいた一人一人。そしてその人につながる全ての命を絶つ光と熱と風と。

10万人の木谷真一がその日、亡くなった。

まずは光。“千の太陽を集めたよう”と形容されるその光で一瞬に消え去った人、多数。

そのあとの高温の爆風で一瞬で燃え尽きた人、無数。

いまだに死者の数の誤差が、+−1万人といわれる所以である。

不幸にも生き延びてしまった人は 火傷で全身を真っ黒に膨らませ 皮膚がベロベロにめくれ 腕が千切れ 腹が裂け 内臓がこぼれ落ち 目玉が飛び出て 

爆心地から離れていた人には 無数にガラスの破片が突き刺さる

そして あちこちで次々と起こる火事 逃げようにも逃げるところがない

川に救いを求めてなだれ込む人々は 次から次へと溺れ死に

竜巻が巻き起こり 人々は天高く舞い上げられ 地面に叩きつけられて死に

ふと気付くと、泣きわめく子どもが家に挟まってうごけない。よく見るとそれは知り合いの子だった。火はすぐそこまで迫っていた。

からだは殆ど外に出ているのに、片足が柱と柱に押しつぶされて引き出せないのだ。

助けようとするがどうにもならなかった。周りを見ても全裸で狂ったように歩く真っ黒な人々ばかり。

「もうすぐ楽になるからな。」真一は、そう言って謝るように手を合わせ、その場を立ち去った。

「助けて上げられなくてごめんな。」

流れる涙を拭うこともなく歩き続けた。自分自身も全身大火傷を負っていた。服はズボンがかろうじて半分残っていた。

靴はいつの間にかなくなっていた。腫れ上がり真っ黒で、ぶつかっても誰だかわからない顔・・・顔・・・

「自分もそうなのだろう。」

そんなことをぼんやりと考えながら真一は、火の手に流されるようになり逃げ惑う群衆に流されながらも、いろんな知り合いの安否を訪ねて回った。

燃え上がって通れないところは遠く迂回しながら夕方まで歩き続けた。死体の山の上を歩き続けた。

皮膚が破けずるりとすべり、こけてしまうこともしばしばだった。

会う人会う人に名前を聞くが、誰だか全くわからない。全員が全員、誰かを探している。みんな何処へ行ってしまったのか?わからない。

何もかもわけがわからないが、ひとつ確かなのは、誰かに「死ね。」と思われたということ。ぼやけた頭でそんなふうに思った。

空は黒煙でどんよりと曇っていた。午後には全ての死体が腐りはじめていた。日が落ちてくると広島の空は炎で夕焼けのように真っ赤になった。

真一は歩き続けた。何度も嘔吐して喉が乾いて仕方がなかった。

「正子、もう会えんかもしれん・・・文子、さようなら・・・水が・・・水が飲みたい・・・水・・・水・・・水をください。」

もうそれしか考えられなくなっていた。

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木谷真一 享年70歳
没:昭和20年8月6日夕刻 黙祷。

主な参考資料『夕凪の街 桜の国』こうの史代 双葉社、『この世界の片隅に』こうの史代 双葉社、『サダコ』カール・ブルックナー著 片岡啓治訳 よも出版、『千の太陽より明るく』ロベルト・ユンク著 菊盛英夫訳 文藝春秋新社、『黒い雨』井伏鱒二 新潮文庫、『父と暮らせば』井上ひさし 新潮文庫、 図録『原爆の絵』広島平和記念資料館編 岩波書店、『ヒロシマ、ナガサキ、フクシマ』田口ランディ ちくまぷりまー新書、ヒロシマを世界に』広島平和記念資料館編、『原爆詩集』峠三吉 平和文庫 日本ブックエース発行、『長崎の鐘』永井隆 アルバ文庫、『夏の花』原民喜 集英社文庫、『アトムの時代 the age of the atom』美術出版社編、『広島軍司令部壊滅』宍戸幸輔 読売新聞社、『ヒロシマ・ノート』大江健三郎 岩波新書
posted by Mukai Kumotaro & Duex Shrine at 08:15| ブログ?