2020年07月16日

千の太陽よりもあかるく

1945年、7月はじめに日本の敗北は決定的になっていた。

それでも、大日本帝国が敗北を認めなかったのは、敗戦後に天皇制が護られることが保証されていなかったからです。

日本の指導部が敗けを認めないあいだにニューメキシコの砂漠では、アメリカの原爆開発計画がいよいよ佳境に入っていた。

7月16日、最終実験の日。

原子力爆弾がウインチで慎重にゆっくりと引き上げられていく。そして地上30メートルの高さにある塔の所定の位置にセッティングされた。

実験予定時刻の7時間前、ニューメキシコ・ロスアラモスの天候は荒れていた。稲光が不気味に光り霧雨が降っていた。

原爆開発計画の責任者、ロバート・オッペンハイマーと軍の最高責任者、レスリー・グローヴスは話し合いを続けた。

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グローヴスとオッペンハイマー。photo by Marie Hansen. 

オッペンハイマーはやせた先鋭的なインテリ知識人、グローヴスは太って保守的で粗野で知性のかけらもなかった。

このあらゆる面において対照的な二人は、不思議な相乗効果で原爆開発を推し進めていた。

決行か、延期か・・・

夜明けまであと3時間、爆発実験を正確に観測するには暗いうちに実験を行わなければならない。

二人は嵐がおさまることを祈り、5時半まで待つことにした。

午前4時半「雨が止み雲も切れ徐々に散りつつある」

報告書がオッペンハイマーに提出され実験は、午前5時半に行うと決定が下された。

午前5時10分「予定時刻20分前」

砂漠の拡声器から声が鳴り響き、つづいて秒読みがはじまった。秒読みがつづき警報のサイレンが基地に鳴り響く。物理学者や軍人たちはそれぞれ近くの塹壕の中に身を伏せた。

「1分前・・・50秒前・・・」

45秒前、自動制御装置のスイッチが入れられた。

10秒前、最後のスイッチが入れられた。

「10、9、8、7・・・」

基地中の誰もが固唾を飲む中、秒読み係が声を限りに叫んだ。

「ゼロ!」

次の瞬間「千の太陽を集めた」と表現される核爆発が起こった。

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トリニティ実験の爆発直後の火の玉。爆発から0,016秒後、火球は200メートル幅に及んだ。地平線に沿った黒点は木々である。photo by Berlyn Brixner. 

「音もなく太陽が輝いた・・・電離した空気が発光して息を飲む光景だった。」オットー・フリッシュ(物理学者)

「まだ夜中なのに・・・朝が来たようだった。」フィル・モリソン(物理学者)

完全な静寂がずっとつづいたあとに凄まじい爆発音がやってきた。残響は長いこと鳴り響きつづけた。

あるものは泣き、ほとんどの者は無言だった。その時、オッペンハイマーのあたまにバガヴァード・ギーターの一節がよぎった。

「われは“死”なり。世界の破壊者なり」

「あの時の気持ちはことばではとても言い表せない。いまでもそのショックが残っている。恐ろしくて不吉で、こころの底まで凍りつくようだった。」イザドア・ラビ(物理学者)

人類はとうとうパンドラの匣を開け、人為的にはコントロールが難しい未知のパワーを解き放つことに成功したのだった。

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Jack W. Aeby, July 16, 1945, This image comes from the Google.

参照・引用:『ヒロシマを壊滅させた男オッペンハイマー』ピーター・グッドチャイルド著 池澤夏樹訳 白水社
posted by Mukai Kumotaro & Duex Shrine at 15:46| ブログ?