2020年08月06日

ふたつの太陽_2020

1945年8月6日 8時15分

広島の青空に、摂氏12000度の“ふたつの太陽”があらわれた。

太陽の表面温度が6000度。

太陽、ふたつ分の狂気が人類の手によって解き放たれた。

そこにいた一人一人。そしてその人につながるすべての命を永遠に絶つ光と熱と風。

10万人の木谷真一がその日、亡くなった。

まずは光。

“千の太陽を集めたよう”と形容されるその光で一瞬に消え去った人、多数。コンクリートの建ものには人間の影だけが残った。

そのあとの高温の爆風で一瞬で燃え尽きた人、無数。爆心地周辺の地表の温度は摂氏4000度にも達した。

いまだに死者の数の誤差が、+−1万人といわれる所以である。

不幸にも生き延びてしまったひとは 火傷で全身を真っ黒に膨らませ 皮膚がベロベロにめくれ 腕が千切れ 腹が裂け 内臓がこぼれ落ち 目玉が飛び出る 

爆心地から離れていたひとには 無数にガラスの破片が突き刺さる

そして あちこちで次々と起こる火事 逃げようにも逃げるところがない 川に救いを求めてなだれ込む人々は 次から次へと溺れ死ぬ

竜巻が巻き起こり 人々は天高く舞い上げられ 地面に叩きつけられて死ぬ・・・

その瞬間、まるで巨大なフラッシュをたいたように目の前が真っ白になった。

真っ白なのだけれどそのふちは、赤や緑や紫やいろんな色が気味悪く縁取っていた。

と、耳をつんざくような音がして真一は吹き飛ばされた。耳が聴こえなくなって無音になった。ゆっくりと起き上がるとあたりは真っ暗で何も見えなかった。

耳のつかえがとれた瞬間に、人々の叫び声が聞こえてきた。

そばにいた子どもたちは吹き飛ばされて、黒焦げになったり、無傷のままだったりの状態で死んでいた。

じぶんはどうなっているのか?顔を触ってみるがぶよぶよとしていて感覚がない。

あたりからはたちまち火が上がり、あちこちで火事が起こりはじめたので慌てて立ち上がり歩きはじめる。

切れた電線が垂れ下がりばちばちと火花をあげている。一頭の馬が燃えながら走っていく。カラスが燃えながらぴょんぴょんとはねていく。

血を流していないひとは1人もいない。

頭から、顔から、手から、裸のひとは胸から、背中から、腿から、どこからか血を流している。

皮膚がだらんと垂れて、両手を幽霊のように前に出して歩いているひとが大勢いる。

一糸まとわず、歩いているひとも大勢いる。

近くに爆弾でも落ちたのか・・・

なにが起こったのかまったくわからないまま、真一はとにかく丸さ呉服店を目指すのだった。

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『原爆投下直後』提供:広島平和記念資料館/撮影:米軍

参照・引用:『黒い雨』井伏鱒二 新潮文庫、『父と暮らせば』井上ひさし 新潮文庫、『ヒロシマを世界に』広島平和記念資料館編、『原爆詩集』峠三吉 平和文庫 日本ブックエース発行、『夏の花』原民喜 集英社文庫、『ヒロシマ・ノート』大江健三郎 岩波新書
posted by Mukai Kumotaro & Duex Shrine at 08:00| ブログ?